先天鼻涙管閉塞は、生まれつき涙の通り道の出口付近が開通していないため、 赤ちゃんの涙目や目やにを起こす病気です。 多くは成長とともに自然に開通しますが、症状が続く場合には年齢や閉塞の状態に応じて プロービングや涙道内視鏡を用いた治療を検討します。
目頭の強い腫れ・発赤、発熱、ぐったりしているなどの症状がある場合は、 通常の涙目として様子をみず、早めの眼科受診が必要です。
先天鼻涙管閉塞とは
涙は目の表面を潤したあと、目頭にある「涙点」から涙小管、涙嚢、鼻涙管を通り、 最後に鼻の中へ流れていきます。
先天鼻涙管閉塞では、この通り道のうち鼻涙管が鼻腔へ開く出口付近が 生まれた時から十分に開通していません。 典型的には、鼻涙管の下端に薄い膜状の閉塞が残っている状態です。
涙を作る機能そのものに問題があるわけではなく、 作られた涙が鼻へ流れにくくなるために、目から涙があふれたり、 涙道内にたまった分泌物によって目やにが繰り返したりします。
赤ちゃんにみられる主な症状
涙がいつもたまっている
片眼または両眼の涙が多く、涙が頬まで流れることがあります。
目やにを繰り返す
朝になるとまつ毛がくっつく、拭いても目やにが繰り返すなどの症状がみられます。
目頭から分泌物が逆流する
涙嚢に涙や粘液がたまると、目頭付近への圧迫で涙や目やにが逆流することがあります。
涙で目の周囲が荒れる
涙が常にあふれることで、まぶたや頬の皮膚が赤くなることがあります。
1歳までに自然に治ることが多い病気です
先天鼻涙管閉塞の大きな特徴は、自然開通する割合が高いことです。 日本眼科学会の「先天鼻涙管閉塞診療ガイドライン」では、 生後12か月までに80~96%が保存的加療で治癒するとされています。
そのため、生後早い時期に先天鼻涙管閉塞と診断されたからといって、 すぐにすべてのお子さんへ手術を行うわけではありません。 目やにや炎症の程度を確認しながら自然開通を待つことがあります。
自然開通を待つ間の点眼と涙嚢マッサージ
抗菌点眼は目やにを減らすための治療です
目やにや膿性の分泌物が多い場合には、医師の判断で抗菌点眼薬を使用することがあります。 ただし、抗菌点眼薬によって鼻涙管の閉塞そのものが開通するわけではありません。
日本眼科学会のガイドラインでは、抗菌点眼薬には眼脂や膿性分泌物を減らす効果が期待できる一方、 自然治癒を促す薬ではなく、耐性菌の問題もあるため長期間漫然と使用せず、 必要な時に使用することが提案されています。
涙嚢マッサージ
涙嚢の内容物を鼻涙管の出口方向へ押す「Crigler法」と呼ばれる 涙嚢マッサージを行うことがあります。 ガイドラインでは効果について十分な確証があるとはいえないものの、 自然開通を促す可能性があり、自宅でも実施できることから、 適切な方法を説明したうえで行うことが提案されています。
強く押せばよいわけではありません。 赤ちゃんの目元に行う処置なので、自己流ではなく眼科で方法を確認してください。
自然に開通しない場合|プロービングによる開放
保存的に経過をみても閉塞が残り、涙や目やにが続く場合には、 涙点から細い器具を入れ、閉塞部を開放する 「プロービング(ブジー)」を検討します。
何歳になったら手術するのでしょうか
先天鼻涙管閉塞には「○歳になれば必ず手術」という全国共通の年齢はありません。 自然開通の可能性と、処置中の体動、麻酔の必要性、片眼か両眼か、 これまでの経過を合わせて判断します。
片側性の先天鼻涙管閉塞では、1歳を過ぎて全身麻酔下でプロービングするまで待つ方法と比べ、 生後6~9か月ごろに局所麻酔下でプロービングすることが「弱く提案」されています。 ただしエビデンスの確実性は高くなく、両側性ではどちらの時期が良いか判定できていません。
したがって、「1歳まで何もせず待ち、1歳になったら必ず手術する」という単純な治療ではありません。 症状が軽く自然開通を期待できる場合と、早めに処置を検討した方がよい場合があります。
涙道内視鏡による鼻涙管閉塞の開放
涙道内視鏡は、涙点から非常に細い内視鏡を入れ、 涙道の内部を実際に観察するための機器です。 閉塞している場所や涙道の形を確認しながら、 内視鏡の先端や専用の器具を用いて閉塞部を開放することができます。
閉塞部を確認できる
従来の盲目的なプロービングとは異なり、 涙道内部を観察しながら閉塞部へ到達できることが特徴です。
単純な膜状閉塞以外も確認
閉塞の位置や複雑な涙道形態などを確認し、 その後の治療方法を検討する情報になります。
日本眼科学会のガイドラインでも、先天鼻涙管閉塞の治療に涙道内視鏡を使用することが提案されています。 ただし、自然治癒率が高い病気であること、小児へ涙道内視鏡を使用できる施設が限られることから、 すべての症例で必要になる検査・治療ではありません。
最初の治療で開通しなかった場合
先天鼻涙管閉塞の多くは鼻涙管下端の膜状閉塞ですが、 すべてが単純な閉塞とは限りません。 涙道の途中に狭窄がある場合や、複雑な閉塞、涙小管側の異常などがある場合には、 一度の処置で十分な改善が得られないことがあります。
日本眼科学会のガイドラインでは、 一度目の盲目的プロービングが不成功だった場合に、 同じ盲目的プロービングをもう一度繰り返すことは弱く「行わないこと」が提案されています。
閉塞の状態を再評価
単純な膜状閉塞なのか、複雑な閉塞なのかを確認します。
涙道内視鏡による可視化・再開放
必要に応じて涙道内部を直接確認しながら治療方法を検討します。
涙管チューブなどを検討
年齢、閉塞の形、過去の治療歴に応じ、一定期間通り道を保つための 涙管チューブ留置などが選択肢になる場合があります。
難治例ではDCRを検討することも
これらの治療でも改善が難しい場合には、 将来的に涙嚢鼻腔吻合術(DCR)が治療選択肢となることがあります。
将来的にDCRが必要になることはありますか?
あります。ただし、先天鼻涙管閉塞のお子さん全員に必要になる手術ではありません。
涙嚢鼻腔吻合術(DCR)は、閉塞した鼻涙管をさらに押し広げる手術ではなく、 涙嚢と鼻腔の間に新しい涙の出口を作り、 閉塞した鼻涙管を迂回して涙を鼻へ流すための手術です。
プロービング、涙道内視鏡による開放、涙管チューブなどを行っても 十分な改善が得られない複雑・難治性の鼻涙管閉塞では、 DCRが選択肢になることがあります。
小児でDCRが必要と判断される場合は、鼻腔の発育、閉塞部位、 これまでの手術歴、全身麻酔の必要性などを考え、 小児の麻酔・涙道手術に対応できる医療機関で適切な時期を検討します。
文献から考える「いつまで待つか、いつ治療するか」
① 1歳までの自然治癒率は高い
日本眼科学会の診療ガイドラインでは、 生後12か月までに80~96%が保存的加療で治癒するとまとめられています。 不要な外科的処置を避けるという意味で、自然経過を見ることには合理性があります。
② 1歳を過ぎても自然開通する例はある
日本人小児を対象にした後ろ向き研究では、 12か月を過ぎてからも自然開通が確認され、 自然開通した群の平均月齢は約17.8か月でした。 ただし、経過観察を選択した症例を含む研究であり、 「1歳を超えれば45%が必ず治る」という意味ではありません。
③ 手術時期には現在も議論がある
自然治癒を待つメリットがある一方、月齢が高くなると処置時の体動を抑えることが難しくなり、 全身麻酔が必要となることがあります。 また、年齢とともに一般的なプロービングの成功率が低下する傾向も報告されています。
④ 涙道内視鏡で治療の選択肢が広がっている
日本からは涙道内視鏡を用いたプロービングやチューブ留置について良好な成績が報告されています。 2026年に報告された、1歳以上で全身麻酔下の涙道内視鏡治療を受けた小児を対象とする 後ろ向き研究でも、症候群を伴わない涙道閉塞では高い完全改善率が報告されました。 一方、病型が多様な集団を対象とした後ろ向き研究であり、 すべての先天鼻涙管閉塞へ同じ成績を当てはめることはできません。
このため現在の治療では、 「自然治癒する可能性が高い時期に必要以上に手術を急がないこと」と、 「改善しない状態を年齢だけを理由に漫然と待ち続けないこと」 の両方が大切です。
早めに受診したい症状
次の症状がある場合は早めに眼科へ
- 目頭が赤く大きく腫れている
- 目頭を触ると強く嫌がる、痛そうにしている
- 発熱を伴っている
- 急に目やにが大幅に増えた
- まぶたまで赤く腫れている
- ぐったりしている、哺乳状態が悪い
- 黒目が大きく見える、強くまぶしがるなど、通常の涙目以外の症状がある
涙嚢に感染を起こす急性涙嚢炎や、その周囲へ炎症が広がる場合には 早期の治療が必要になることがあります。
よくある質問
先天鼻涙管閉塞は何歳まで自然に治りますか?
多くは1歳ごろまでに自然開通しますが、1歳を過ぎてから自然に開通する例もあります。 1歳を絶対的な期限とはせず、症状や経過をみて治療時期を検討します。
1歳になるまで目薬を続ければ治りますか?
抗菌点眼は鼻涙管そのものを開通させる治療ではありません。 目やにや膿性分泌物が多い時に使用するもので、 長期間漫然と使用せず、必要性を診察で判断します。
涙道内視鏡は赤ちゃんにもできますか?
小児にも使用された報告があります。 ただし、年齢や体動、治療内容によって全身麻酔が必要となることがあり、 実施できる施設も限られます。
1歳になったら必ず手術をした方がよいですか?
必ずではありません。 自然開通する可能性、片眼・両眼、症状の程度、これまでの経過、 麻酔方法などを合わせて判断します。
内視鏡で開けても治らなかったらDCRになりますか?
すぐに全員がDCRになるわけではありません。 閉塞の場所や形を再評価し、涙管チューブなど他の治療を検討する場合があります。 複雑・難治性の閉塞で改善が得られない場合には、 将来的にDCRが治療選択肢となることがあります。
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赤ちゃんの涙目・目やにが続くときはご相談ください
先天鼻涙管閉塞かどうかは、症状だけでなく目の表面や涙の通り道を確認して判断します。 自然経過をみる時期なのか、さらに検査や治療を検討する時期なのかを、 お子さんの年齢と症状に合わせて考えます。
電話 092-707-2132 有田眼科ホームページ主な参考文献
- 先天鼻涙管閉塞診療ガイドライン作成委員会: 先天鼻涙管閉塞診療ガイドライン.日眼会誌 126:991-1021, 2022.
- Sathiamoorthi S, Frank RD, Mohney BG. Spontaneous Resolution and Timing of Intervention in Congenital Nasolacrimal Duct Obstruction. JAMA Ophthalmol. 2018;136(11):1281-1286.
- Nakayama T, Watanabe A, Rajak S, Yamanaka Y, Sotozono C. Congenital nasolacrimal duct obstruction continues trend for spontaneous resolution beyond first year of life. Br J Ophthalmol. 2020;104(8):1161-1163.
- Sasaki H, et al. Congenital nasolacrimal duct obstruction: clinical guideline. Jpn J Ophthalmol. 2024.
- Matsumura N, et al. Endoluminal lacrimal duct recanalization for pediatric lacrimal duct obstruction: etiologic spectrum and surgical outcomes. Jpn J Ophthalmol. 2026.
本文は一般的な医学情報を目的としたものです。 実際の検査・治療方法、手術時期、麻酔方法は、 お子さんの年齢、閉塞部位、症状、全身状態、治療施設の体制によって異なります。