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2026.08.28

手術について

白内障手術の日、術者は何を考えているのか|前日の夜から手術翌朝まで

SURGEON'S NOTE / 院長コラム

白内障手術を受ける患者さんが緊張するのは、当然だと思います。 ただ、実は手術をする側にも、毎回緊張があります。

私にとって白内障手術は、手術室に入ったところから始まるわけではありません。 前日の夜から、翌日手術をする患者さんのデータをもう一度確認し、 頭の中で一眼一眼の手術を組み立てていきます。

「もしこれが自分の眼だったら、どうしてほしいか」 手術の前も、手術中も、私が判断の基準の一つにしていることです。
THE DAY BEFORE

白内障手術は、私の中では前日の夜から始まります

前日の夜、翌日手術をする患者さんのデータをもう一度確認します。

どちらの眼を手術するのか。白内障はどのくらい硬いのか。 眼軸長や角膜の形、乱視の程度、予定している眼内レンズの種類と度数。 網膜や視神経に、術後の見え方へ影響する病気がないか。 瞳孔は十分に開きそうか。 水晶体を支えているチン小帯に弱さを疑う所見がないか。

眼内レンズをもう一度確認する

眼内レンズは術後の見え方に長く関わります。 「この方に、このレンズで本当によいか」を前日にもう一度確認します。

眼だけでなく、患者さん全体を見る

年齢、全身疾患、服薬、腰や首の状態なども確認します。 腰が大きく曲がっている方、仰向けがつらい方、 咳が出やすい方もいます。

手術前にできるだけ多くのことを想定しておけば、 予定外のことが起こったときにも慌てず判断できます。

これは手術を早く終わらせるための予習ではありません。 安全に手術を終えるための準備です。
NO TWO EYES ARE THE SAME

「白内障手術」と一言で言っても、一つとして同じ眼はありません

白内障手術は、ある程度決まった手順で行われます。 しかし、術者から見ると、一つとして同じ眼はありません。

眼の大きさ・形が違う

眼軸長、前房の深さ、角膜の形などは一人ひとり異なります。

水晶体の硬さが違う

柔らかい白内障もあれば、非常に硬くなっている白内障もあります。

水晶体を支える力が違う

チン小帯がしっかりした眼もあれば、 手術を始めると水晶体嚢が想像以上に動く眼もあります。

手術中の動きも違う

眼球が動くことも、体が動くこともあります。 咳が出たり、姿勢を保つことが難しくなったりする場合もあります。

だから私は「いつもの白内障手術」とは考えないようにしています。 同じ患者さんでも右眼と左眼で条件が違うことがあります。 目の前のその眼を見て、その瞬間の状態に合わせて判断します。
SURGICAL TIME

手術時間は短い方がよい。でも、白内障手術はタイムトライアルではありません

手術時間について、私は「長ければ丁寧」「短ければ上手」という単純なものではないと考えています。

患者さんの立場から考えれば、必要以上に手術が長引かない方がよいのは当然です。 手術台に横になっている時間が短ければ、緊張や姿勢による負担も少なくなります。 開瞼器でまぶたを開けている時間や、眼を手術操作にさらす時間も必要以上に長くしない方がよいと考えています。

ですから、私も手術を無駄なく、できるだけスムーズに進めることを意識しています。

しかし、白内障手術は「何分で終わったか」を競うタイムトライアルではありません。 数十秒、数分を短くするために、必要な確認や操作を省いてしまっては意味がありません。
1 正確に 必要な操作と確認を省かない
2 安全に 眼の状態に合わせて無理をしない
3 そのうえで速く 無駄な操作や待ち時間を減らす

私が手術中に時間を使うべきだと思っているところはいくつもあります。

乱視への影響を考える

切開の位置や創口への力のかかり方にも注意し、 手術そのものが術後の乱視へできるだけ悪影響を与えないように意識します。

痛みを我慢させない

痛みや強い刺激があれば、速さを優先してそのまま進めるのではなく、 患者さんの反応を確認し、必要な対応を行います。

不安への声かけを省かない

「順調ですよ」「そのままで大丈夫ですよ」といった一言で 患者さんが落ち着けるなら、その声かけも手術に必要な時間です。

チン小帯に負担をかけない

水晶体を支えるチン小帯が弱い眼では、 早く終わらせようとして無理に水晶体を動かすことは避けます。 一つひとつの操作で水晶体嚢の動きを確認します。

水晶体嚢内をしっかり確認する

水晶体を吸引して終わりではなく、 残った水晶体皮質がないか、水晶体嚢や後嚢の状態を確認します。 必要に応じて後嚢表面を丁寧に洗浄・研磨し、 後発白内障の原因となり得る残存皮質や細胞をできるだけ減らすことを目指します。

眼内レンズを中央に安定させる

眼内レンズを入れたら終わりではありません。 レンズが水晶体嚢内で適切に開き、できるだけ良好なセンタリングが得られているかを確認します。

乱視矯正レンズの軸を合わせる

トーリック眼内レンズでは、予定した軸へできるだけ正確に合わせることが重要です。 数十秒を惜しんで軸確認を省くようなことはしません。

最後の確認までが手術

創口、水晶体嚢、眼内レンズ、前房の状態などを確認し、 「早く終わらせるために最後の確認を省く」という考え方はしません。

正確さと安全性が最優先。そこを守ったうえで、スピーディーに終わる手術がよい。 速くするために必要な操作を省くのではなく、 必要なことを確実に行いながら、無駄なく進めることを大切にしています。

私は、時間をかける必要がある一分は惜しみません。 一方で、必要のない一分を患者さんへ負担させる必要もないと思っています。

それが、私が考える白内障手術の「速さ」です。

※後嚢の洗浄・研磨を行っても後発白内障を完全に防げるわけではありません。 眼の状態に応じて必要性と安全性を判断します。

RELAXATION

患者さんの緊張だけでなく、術者やスタッフの緊張にも気をつけています

手術室の雰囲気は、患者さんに伝わると思っています。

患者さんは手術中、周囲の状況を十分に見ることができません。 その分、術者やスタッフの声の調子、話す速さ、 手術室の空気などを敏感に感じているのではないかと思います。

術者やスタッフが必要以上に緊張していれば、 その緊張が患者さんにも伝わります。

患者さんが緊張すると体に力が入り、 眼球も動きやすくなることがあります。

技術的に集中することと、手術室を張り詰めた雰囲気にすることは別です。 スタッフともできるだけ落ち着いて話し、 患者さんには安心してもらえる声のトーンを意識しています。

リラックスできる雰囲気をつくることも、手術の一部だと考えています。

EYE MOVEMENT

私は、できるだけ「目をまっすぐ向けてください」と言わないようにしています

手術を受ける患者さんの中には、 「目を動かしてはいけない」「ずっとまっすぐ見なければいけない」 と思っている方がいます。

しかし、意識すればするほど難しくなることがあります。

「まっすぐ見てください」 「動かさないでください」 と何度も言われれば、それ自体が緊張の原因になることがあります。

私の経験では、緊張が強くなるとかえって眼が上を向いたり、 眼球の動きが大きくなったりする方もいます。

患者さんに完璧な眼の位置を求めすぎない

こちらで対応できる動きであれば、まず術者側が合わせます。 必要なときだけ「少し下を見てください」 「そのままで大丈夫ですよ」と短く声をかけます。

患者さんができるだけ自然な状態でいられる環境を、 術者側がつくることが大切だと考えています。

咳が出そう、腰が痛い、苦しい、どうしても動きたいという場合は、 我慢した末に突然動くより、できれば先に声で知らせていただければ対応できることがあります。

CAPSULAR TENSION RING

チン小帯が弱いとき、CTRを「入れれば安心」というほど単純ではありません

白内障手術では、水晶体を包む袋である水晶体嚢をできるだけ保ちながら、 中の濁った水晶体を取り除き、その中へ眼内レンズを入れます。

水晶体嚢を周囲から支えている細い線維が「チン小帯」です。 このチン小帯が弱いと、水晶体嚢全体が不安定になります。

そのような場合に使用を検討する器具の一つが、 水晶体嚢拡張リング(CTR:capsular tension ring)です。

CTRを水晶体嚢内へ入れることで、 嚢を円形に広げながら力を周囲へ分散させ、 安定性を高めることが期待できます。

私はチン小帯脆弱があり、必要性が高いと判断した場合には、 CTRを積極的に検討します。

ただし「チン小帯が弱いから、CTRを入れればよい」というわけではありません。 CTRには、入れることによるデメリットや、挿入するタイミングの問題もあります。

早く入れるメリット

水晶体嚢を早い段階から支えることができ、 その後の操作中の安定性を高められる可能性があります。

早く入れるデメリット

水晶体皮質がCTRと水晶体嚢の間に入り込み、 あとから皮質を吸引しにくくなることがあります。

また、CTRそのものを挿入する操作によって、 残っているチン小帯へ力が加わる可能性も考えます。

一方で、CTRを入れずに水晶体の吸引を進めれば、 もともと弱い水晶体嚢がさらに大きく動き、 チン小帯断裂が広がる可能性もあります。

重要なのは「CTRを入れるか」だけでなく、「いつ入れるか」です。 水晶体を吸引する前の段階で、 この嚢がそのままの状態で操作に耐えられるのか、 それとも先にCTRで支えた方がよいのかを考えます。

早く入れれば水晶体嚢を支えられる反面、皮質除去が難しくなる可能性があります。 遅く入れれば皮質は取りやすくなりますが、 それまでCTRなしで不安定な水晶体嚢を保つ必要があります。

さらに、CTR挿入後に大きなチン小帯断裂などが生じた場合には、 CTRを含む水晶体嚢が硝子体側へ偏位・脱落し、 その後の対応や回収が難しくなる可能性も考える必要があります。

CTRは「便利だから使う器具」ではありません。 その眼で、使うメリットとデメリットのどちらが大きいのか、 そしてどのタイミングで使うべきなのかを判断して使用します。
INTRAOCULAR LENS

予定していた眼内レンズを入れることに、固執しない

白内障手術の前には、患者さんと相談しながら眼内レンズを選びます。

単焦点か多焦点か。乱視矯正が必要か。 どの距離の見え方を重視するか。

私は十分に検討したうえで、 予定していた眼内レンズを、できる限り予定どおり挿入したい と考えています。

角膜乱視があり、乱視矯正によるメリットが期待できる場合には、 トーリック眼内レンズも積極的に検討します。

「自分の眼なら、このレンズを入れたいと思えるか」 価格や新しさではなく、その眼と生活に本当に合うかを考えます。

しかし、手術中になって初めて分かることがあります。

  • 想定以上にチン小帯が弱い
  • 水晶体嚢の支持が十分ではない
  • 予定した眼内レンズでは安定しない可能性がある
  • 術後に眼内レンズが偏位する危険性が高い
  • 将来、眼内レンズや水晶体嚢が大きくずれる可能性がある

このような状態で予定していたレンズを無理に挿入すると、 かえって眼内レンズが偏位・落下したり、 術後の見え方が悪くなったりする可能性があります。

その場合は「予定どおりのレンズを入れること」より、安全性と長期的な安定性を優先します。 術前に予定していたものとは異なる眼内レンズを選択する場合があります。

これは簡単に予定を変えるということではありません。 予定どおり進めることへ固執することで、 将来患者さんに不利益が生じないかを考えたうえでの判断です。

もしこれが自分の眼だったら。もし自分の家族の眼だったら。 その状態で無理に予定どおり進めてほしいかどうかを考えます。
WHEN PLANS CHANGE

「予定どおりに終わらなかった=失敗」とは限りません

もちろん術者としては、合併症をできる限り起こさないよう、 細心の注意を払って手術を行います。

しかし、人の組織を扱う手術です。 すべてを術前に予測できるわけではありません。

チン小帯が想像以上に弱いこともあります。 水晶体嚢が途中で保てなくなることもあります。 通常より時間がかかることもあります。

また、予定していた位置や方法で眼内レンズを入れない方が 安全だと判断することもあります。

最初の予定を何としてでも守ることより、その時点でその眼にとって安全と考える方向へ切り替える。 これも術者に必要な判断だと思っています。

一方で、実際に合併症が起こった場合には、 「眼の状態だから仕方がない」で済ませるのではなく、 何が起こったのか、現在どのような状態なのか、 今後どのような治療が必要なのかを説明することも術者の責任です。

INFECTION PREVENTION

感染対策も「絶対に大丈夫」と思わないことが大切です

白内障手術後の眼内感染は頻度の高いものではありませんが、 起こった場合には視力へ大きな影響を及ぼす可能性があります。

そのため感染対策については、 「滅多に起こらないから大丈夫」ではなく、 「起こる可能性がゼロではないから、できる対策を一つずつ確実に行う」 という考えで取り組んでいます。

手術前の準備、消毒、清潔操作、器具の管理、術後の診察。 一つひとつは当たり前のことですが、 その当たり前を省略しないことが大切だと考えています。

SURGEON'S MIND

人の眼を手術する怖さは、今もあります

長く手術をしていると、 「もう怖くないでしょう」と思われるかもしれません。

しかし私は、人の眼を手術することへの怖さが 完全になくなったわけではありません。

これは「自分に手術ができるか分からない」という怖さとは違います。

人にとって非常に大切な 「見える」という機能を預かっていることへの怖さ です。

手術には慣れなければならない。
でも、人の眼を手術することには慣れきってはいけない。

経験を積み、判断を速くし、 難しい状況にも対応できるようになる必要があります。

しかし「今回もいつもと同じだろう」という油断はしたくありません。

この緊張感は、術者として持ち続けたいと思っています。

SELF-TALK

難しい場面ほど、心の中では自分を奮い立たせています

手術中、ときには難しい状況に直面します。 そんなときに焦ってしまえば、良い判断はできません。

難しい状況だからこそ恐怖に負けず、 それまで積み重ねてきた経験と技術を最大限に出すための、 自分自身へのスイッチです。

人の眼を触る怖さはある。でも、その怖さに負けて手が縮こまってもいけない。 慎重さと決断力、その両方が必要だと思っています。

手術中は、 「今日の自分にできる最大限のことを、この眼のためにする」 ことに集中しています。

AFTER SURGERY

手術が終わっても、術者の中ではまだ終わっていません

手術が無事に終わると、まずはほっとします。

今日できることは全部やった。 自分の力を出し切った。 ベストを尽くした。

そう思って手術室を出ます。

でも、その日の夜になると、また少し考えます。

「明日の朝、よく見えると言ってもらえるだろうか」
「喜んでくれるだろうか」
「思ったほど見えないと言われないだろうか」

少し悶々とすることがあります。

術後の見え方は、すべての患者さんが翌朝から同じようになるわけではありません。 角膜のむくみ、炎症、眼圧、網膜や視神経の状態などによって、 見え方が落ち着くまで時間が必要な場合もあります。

それは術者として分かっています。 それでもやはり、翌日の診察室で、

「先生、よく見えます」 と言っていただけることを期待しています。

患者さんが少し安心した顔で診察室へ入ってくる。 その顔を見ると、こちらもようやく少し安心します。

私の中では、白内障手術は手術室を出た瞬間にはまだ終わっていません。

翌朝、その眼を診察して患者さんの言葉を聞いて、 ようやく一つの手術が一区切りつきます。

TO OUR PATIENTS

手術が怖い患者さんへ

手術台の上で、 「良い患者でいなければ」と思う必要はありません。

怖くても構いません。緊張しても構いません。 眼が少し動くこともあります。 腰が痛くなることもあります。 咳が出そうになることもあります。

そのことを術者やスタッフが分かっている方が、 あらかじめ対応できることがあります。

私たちも、患者さんができるだけ緊張せず手術を受けられる 雰囲気をつくるようにします。

「自分の眼なら、どうしてほしいか」

私は毎回、このことを考えます。

予定を守ることより安全を優先することもあります。 器具を使うことより、あえて使わない方を選ぶこともあります。 予定した眼内レンズを入れることより、 別のレンズへ変更する方がよいと判断することもあります。

そして、速く終わることだけを目標にはしません。 正確に、安全に、その眼に必要な操作をしっかり行う。 そのうえで、患者さんの負担を必要以上に長引かせないよう、 無駄なくスピーディーに手術を終える。

手術には慣れなければならない。
しかし、人の眼を手術することには慣れきってはいけない。

その緊張感を持ったまま、 一眼一眼、自分にできる最大限のことをしたいと思っています。

有田眼科
院長 有田 量一
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白内障手術について詳しく知りたい方へ

このページでは、手術方法そのものではなく、 術者が手術の前後や手術中に何を考えているのかを中心にお伝えしました。 実際の手術方法や眼内レンズ、麻酔については、 関連ページで詳しくご案内しています。

MEDICAL BACKGROUND

医学的背景について

このページに記載した「前日の準備」「術者自身の緊張」 「患者さんへの声かけ」「手術後の夜に考えること」などは、 有田眼科 院長 有田量一の手術に対する考え方と経験を記載したものです。 すべての眼科医に共通する考え方ではありません。

一方、白内障手術を受ける患者さんの不安、 チン小帯脆弱に対する水晶体嚢拡張リング、 乱視矯正眼内レンズと軸合わせ、後発白内障などについては、 眼科学会資料や医学論文などを参考にしています。

CTRは挿入するタイミングによってメリットとデメリットがあります。 早期挿入では水晶体皮質の除去が難しくなることがあり、 一方で遅い挿入では不安定な後嚢の動きが問題となる場合があります。 そのため、チン小帯の状態を見ながら個別に判断します。

また、トーリック眼内レンズは術後の軸ずれが残余乱視へ影響するため、 術前計画だけでなく術中の正確な軸合わせも重要です。

本記事は一般的な医療情報と、有田眼科 院長 有田量一の 手術に対する考え方をお伝えするものです。 実際の手術方法、眼内レンズ、CTR使用の適応やタイミング、 後嚢への処置、術後経過は、患者さんの目や全身の状態によって異なります。

執筆・医学的内容の確認:有田眼科 院長 有田 量一

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